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魔女のブログ

刀剣たくさん! 根津美術館「江戸のダンディズム」を観ました

そういえば英国と魔法の話しかしていなかったので、趣味の美術館巡りの話でもはさむことにしましょう。

刀と拵の超絶技巧に酔う

根津美術館で5/30(日)~7/20(月・祝)まで開催中の「江戸のダンディズム 刀から印籠まで」を見てきました。

今回はコレクション展ですが、刀剣・刀装具・印籠という三つのジャンルの工芸品から、江戸の男性たちの持つ美意識に光を当てる展覧会です。

 

DMMのオンラインゲーム「刀剣乱舞」のリリース以来、全国の美術館・博物館は空前の刀剣ブーム! 江戸東京博物館で開催された「大関ヶ原展」や、各地で行われている特別展示などをきっかけに、刀の世界に興味を持たれている審神者の皆さんも多いのではないでしょうか。刀のみならず、刀を飾る刀装具の世界にもスポットが当てられているこの展覧会は、刀剣の世界にどっぷり浸るにはぴったりだといえるでしょう。

 

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フライヤーもハイセンスですね。男性が手に持っているのは「鏡勾玉蒔絵脇指拵」。天狗の面や榊といった神道のモチーフが随所にちりばめられています。

 

さて、展覧会のテーマになっている、江戸の武士の刀剣事情とはいかなるものだったのでしょうか。

 

江戸はネットワーク (平凡社ライブラリー)

江戸はネットワーク (平凡社ライブラリー)

 

 

戦国の世が終わり、太平の世となってからも、武士階級は刀を携行します。そのため武器として用いられる機会が減っても、刀鍛冶の需要がなくなるということは、基本的にありませんでした。この点は鉄砲との大きな違いだといえます。

とはいえ、江戸時代の刀剣は、武器としての実用性よりもむしろ男性のファッションの一部、装飾品としての美的価値が重んじられていました。ですから、このころに打たれた刀は古様をまねたり、新しい刃文(濤乱刃など)を開発したりしながら、繊細で流麗な作風をきわめています。龍などの彫り物がなされたものも非常に多く、概して「見られる」ことに重きを置いた作りだと言えます。

そして江戸期から明治期にかけておおいに発展したのが、鍔や鞘などの刀装です。いうなれば刀に着せる衣装のようなもので、基本的に持ち主の好みにあわせてあつらえます。鞘は木に漆を塗って作るため漆工、鍔などの刀装具には金工の技術が必要で、さらに目貫(鞘と刀身をつなぐ釘)・小柄(刀に付属する小刀)・笄(こうがい・髪を整える道具)といった小物には、彫金の技術が必要とされます。

ほんの数センチしかない大きさの目貫にすら、十二支や孔子を彫らせて愛でる上流階級の武士たちのセンスには驚かされます。着物や髪型といったわかりやすい部分にではなく、ちらりと見える小物に本物の美を凝縮させる……こうした江戸の男性の「いき」な態度は、「印籠」に込めた情熱にもはっきり表れています。

「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫)

「いき」の構造 他二篇 (岩波文庫)

 

 

刀装具や印籠は江戸美術の重要な一分野を担うに至り、漆芸・金工・彫金すべての分野が、技法・デザイン双方において研ぎ澄まされていきました。そして300年の時を経て幕末に登場したのが、金工の加納夏雄・彫金の海野勝珉・漆芸の柴田是真……という三人の天才です。明治の鉄道王であり、根津コレクションを築いた初代・根津嘉一郎は、かれらの作品を熱心にコレクションしています。

 

刀に沿うように揺れる、鞘の稲穂や早蕨の曲線美には、ただただ酔いしれるほかありません。鍔や印籠、三所物(目貫・小柄・笄の三点セットのこと)をルーペでよく見れば、戦いとは遠く隔たった小宇宙が広がっています。

江戸人が極限まで追い求めた美のかたち、ぜひ生で堪能してみてください。

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お庭もとてもきれいでした。根津美術館はいつ来ても楽しいですね。